2017年09月03日02:53
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【映画】「ピンポン」の感想・解説

ピンポン


ピンポン(宮藤官九郎,2002年)
※このブログにはネタバレが含まれておりますので注意して下さい。

【予告編】


【あらすじ】
片瀬高校一年の星野は、将来ヨーロッパに行って卓球で頂点を目指すという夢を持っている。そのわりには、卓球部の練習はさぼってばかりで、マイペースだ。星野の幼なじみの月本は、幼い頃虐められていたときに、いつも星野に助けてもらった。月本の中では、星野はヒーローであった。星野に卓球を習って、目立たないが卓球の才能を持っている月本は、インターハイチャンピオンの海王学園の風間や、中国のナショナルチームから落ちて日本で再起をはかる孔からも注目されている。しかし月本は卓球は人生の暇つぶしと考えてクールに取り組み、月本を鍛え上げようとする顧問の小泉にも反抗しがちだ。そしてインターハイ県予選がはじまる。星野は、幼なじみで風間に憧れて海王学園に行った佐久間に破れる。月本は孔を追い詰めるが、情をかけ逆転負けをする。風間に認められたい佐久間は、月本に試合を挑むが完敗し、退学し卓球を離れる。一方、卓球をやめようとしていた星野に会い、卓球を続けるように励ます。星野は再起を期して、タムラ卓球のオババのもとで鍛え直す。月本も、小泉と信頼関係を築いていき、特訓をはじめる。そして翌年のインターハイ予選が始まる。月本は圧倒的な力で決勝に進んだ。星野は孔を下し準決勝にすすむ。そして膝痛のため、棄権をすすめるオババの忠告をけって、月本が待っているからと言って風間と戦う。風間は意地をかけて勝利を目指すが、星野は月本の友情に力を取り戻し風間を下す。死力を尽くした戦いに、風間は幸福を感じていた。月本はヒーローである星野との決勝に臨む。
Wikipediaより

【感想・解説】
僕が邦画で一番好きな映画です。
この感想記事だけは日本で一番のものにしたいくらいです。
鬼才・松本大洋の原作を宮藤官九郎が実写化したもので,漫画原作映画の中でも評価がピカイチな作品です。その後にノイタミナでアニメ化もされています。

ちなみに漫画も好きな漫画ベスト2位の作品です(1位は風の谷のナウシカ)。
作中の卓球は全てCGで,映画「マトリックス」並みのCGが使われているみたいです。

ストーリーに沿いながら感想・解説を述べていきますね。


まずは星野(ペコ)が橋から飛び降りるシーンから映画は始まります。
橋

この橋は片瀬江ノ島駅からすぐ近くの弁天橋というところです。
毎回江ノ島に行く度に飛び降りたくなってしまいます。。。
このシーンの意味は後々でてきます。

ペコは小さい頃から卓球が得意で,元気な少年でした。
ある日,ペコはヒーローとして見参し,いじめられていた少年・月本(スマイル)を助けて卓球に誘います。
この神社は下諏訪神社というところで,僕も一度行ったことがあり,本当に子供が遊んでそうな物静かでいいところでした。
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二人は卓球を続け,片瀬高校に入ります。
片瀬高校は特に卓球が強い高校ではなく,二人は時に部活をサボるなどして自由気ままに過ごします。
そんな時,同じ神奈川の辻堂学院高校が中国から孔文革(チャイナ)を招き,ペコとスマイルは偵察に行きますが,ペコはスコンク(1点も取れないで負けること)で負けます。
そして迎えたインターハイ予選,ペコは幼馴染で強豪・海王学園高校に入学した佐久間(アクマ)に負け,スマイルはチャイナと戦います。
スマイルは卓越した才能を持ちながらも,ずっと相手の気持ちを読んで卓球をやってきたので,自分のヒーローであるペコに対しても力を抜いて戦ってきました。他方,スマイルも思春期で,自分を表に出さない性格と,相手を倒そうと一生懸命になる人たちの世界とのはざまに漂流し,退廃的・自暴自棄になっていたところ,ヒーローであるペコを倒したチャイナに対しては実力を隠さずに対決できたのです。しかし,結局チャイナがコーチに怒られ,中国リーグから日本に島流しにされたチャイナの心情を慮り,スマイルは手を抜いて負けてしまいます。このスマイルvsチャイナ戦で,ペコとスマイルの卓球を鍛えた道場「タムラ」の恩師・田村(オババ)が,「本性現してきたね」というセリフを聞いているペコの顔がとっても良いです。ペコはこのとき既にスマイルが自分が追いつくのを待っていることに気づいていたのだと思います。ちなみに,スマイルが試合前にコーチの小泉(バタフライジョー)から渡された粒高ラケットは,コントロールが難しいが変化量が大きくなるラケットで,小泉としては本来スマイルがこれを扱えると見込んで渡したのだと思います。


この大会閉幕で映画オリジナルシーンがあるのですが,私はこのシーンが大好きです。ペコは負けた時に泣く癖があり,階段で泣いていたところ,スマイルが来て少し離れて隣に座り,「行かないの?」と聞き,立ち上がって
「先に行くよ」
と言うんですね。
この少し前に,スマイルはペコにヒーローなんていないと言われてしまいました。そしてチャイナ相手に覚醒をしたスマイルは,今までペコの影に隠れていたのに,ペコを追い越そうと決意したんだと思います。スマイルはそれまで卓球を暇つぶしと言っていたのに,ここから人のために卓球をやるようになっていったのですね。ペコはこのセリフを聞いて顔をあげませんでした。

ペコはここで自暴自棄になります。何週間も卓球を遠ざけます。
ペコはアクマに負けたのがショックだったのではないと思います。
ペコはずっとヒーローでカッコよかったんです。それが,スマイルに追い越されそうになって,カッコつけることが難しくなってしまいました。卓球でてっぺんを取る!という大言壮語も現実的な難しさを感じてきていたんでしょう。要は,スマイルだけでなく,ペコも理想と現実のはざまで漂流してしまったんですね。

そんな折に,インターハイを制した風間(ドラゴン)は,団体戦敗北を受けてスマイルのような選手が欲しいとインタビューに答え,これに嫉妬したアクマはスマイルに挑み,負けてしまいます。
原作を読むとよく分かるのですが,アクマは不器用を体現したような選手なんです。その分,人一倍の努力をしてきました。アクマも理想に現実が追いつかない少年の一人だったんですね。彼の不満がここで爆発します。このシーンの原作が大好きなのですが
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凄いのは、上の画像が左ページで、下の画像を見るのに1ページめくらなきゃいけないところなんですね。
この「間」の作り方が素晴らしいです。鬼才としかいいようがありません。映画もこのシーンをとても上手く表現していました。

勝手な対外試合をして負けたアクマは退部が避けられません。帰り道,ヤンキーと方がぶつかって喧嘩になります。どこ見て歩いてんだよと言われ,思わずこう言ってヤンキーを殴ってしまいます。
「どこ見てあるきゃ褒めてくれんだよ!!」
これも名セリフですね。なかなか努力が報われなかったアクマの心からの叫びです。

他人の心情を慮って打っていたスマイルは,なんでアクマをコテンパンにしたんでしょうか。
僕は,これもアクマの才能のなさを自覚したスマイルなりの優しさだったのだと思います。それゆえに,昔からの友達を一人無くしてしまったスマイルは,そのもやもやを抱え,練習中に一人でどこまでも走って行ってしまいます。スマイルはペコのいない世界で途方にくれていたのです。それでも,コーチである小泉はスマイルの帰りを待っていてくれました。スマイルは小泉を信頼するようになります。私見では,この「待ってくれていた」体験があって,スマイルはペコを安心して待つようになったんじゃないかなあと思います。

他方,ペコは,スマイルに飛ばされたアクマに飛ばされた自分,それが現実だとふさぎ込みますが,アクマに何もしない現実だと言われてしまいます。更に,ペコが頑張らないと,ペコに憧れたアクマやスマイルが浮かばれないと言われてしまいます。映画序盤にも,ペコはスマイルに個人的にカッコ悪いペコを見るの嫌いなんだと言われていましたね。
ペコは今までなんのために卓球をやってきたのでしょう。きっと,自分のためだけにやってきたんです。それが,このシーンから変わってきます。映画冒頭の川に飛び込むシーンに移り,身体を乾かしていたペコはスマイルが唯一笑った小さい頃の卓球大会の表彰式を思い出し,髪を切って再び卓球の道に戻ります。ペコも,卓球をやる意味の中にスマイルら他人の存在を見出したのです。

ペコとスマイルはそれぞれ卓球に打ち込みます。原作では,ペコは大学に行ってオババの息子からコーチを受けます。ペコはバックハンドの弱点を克服すべく,ペンホルダーの裏面にもラバーを張る裏面打法を取り入れます。

そして,舞台は再びインターハイ予選を迎えます。
ペコは第一回戦でチャイナと当たります。チャイナは日本語を少しだけ話せるようになっています。日本よりドイツがよかったと言っていたチャイナが,去年のスマイル戦や風間戦を経て大人になったんですね。原作ではチャイナは自分の練習だけでなく,辻堂学院の指導にも熱を入れていたという描写があり,彼もまた一年間で成長したことが伺えます。ペコは以前才能に甘えてチャイナに負けてしまいましたが,今回はチャイナを打ち破ります。

他方,スマイルも順調に勝ち上がり決勝に上り詰めました。決勝の相手は,準決勝のペコvsドラゴンの勝者です。
ドラゴンが試合前にトイレに篭っていると,アクマがドラゴンのもとに訪れ,多分本作で一番難解なこんなやりとりがあります。
「風間さんがこうして試合前便所に立てこもる理由,卓球から足洗った今,ようやく分かる感じです。」
「笑うか?」
「風間さん,誰のために卓球やってます?」
「無論,自分のため」
「冗談言わないでください。今のが本音なら俺だって何も・・・行きます,俺」
「佐久間! ・・・恨むか?私を」
「同情してます」
私見ですが,卓球をやめたアクマは全てのプレッシャーから解放されて,勝利が宿命で他人のためだけに卓球をやっていたドラゴンの辛さを理解したんです。ドラゴンは,そのプレッシャーと戦うために試合前にトイレに篭っていたのですね。ドラゴンはいつも独りだったんです。彼の心のうちが漏れてしまったのが,自分と同等の月本が欲しいというインタビューへの回答だったのでしょう。しかし,他人のために卓球をしていたドラゴンにとっては,それで卓球をやめざるをえなかったアクマが心残りでした。アクマとしては,1年経ってドラゴンの内情も理解し,同情していると返したのです。高校生最強のドラゴンもまた,理想と現実で戦う高校生の独りだったのです。

他方,ペコは右膝の傷が痛んでオババに辞退を勧められますが,ペコはスマイルと戦うために,怪我をおしてまでドラゴン戦に臨みます。
「スマイルが呼んでんよ。
アイツはもう、ずっと長いことオレを待ってる・・・ずっと長いこと、オレを信じてる・・・
気づいてたけど、知らんフリしてたんよ。」
「ペコ,愛してるぜ」
オババもスマイルとペコのことをずっと見て気付いていたんですね。いつまでもペコの影に隠れてないで表にでりゃどうなんだい,とけしかけていましたし。オババが後にペコvsスマイル戦を「勝ち負けが意味を持つ試合ではない」というように,オババは勝ち負けよりも,選手生命よりも,大事なものをペコがかけていることがわかったのでしょう。

ペコとドラゴンの戦いは,はじめドラゴンが1ゲームを先取します。
ペコは膝の傷が痛んでまともに戦えません。
自分がヒーローと言い聞かせて戦おうとしたその時,スマイルが心に浮かびました。
ペコはもう一人で戦ってはいないのです,ドラゴンとは違い,そばにずっとスマイルがいました。
それに気付いたとき,ペコはもう痛みなど感じませんでした。
「反応,反射,音速,高速,もっと速く!!」
ペコのプレーを見たチャイナもこう漏らします。
「ホシノのプレーは型にはまってないよ。卓球が好きでたまらないと言った感じだ。そういう相手と一緒にプレーできるということは・・・幸せだ」
そしてペコはドラゴンを打ち破りました。
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決勝戦,会場の通路でペコとスマイルは久しぶりに顔を合わせます。
「ビバッ。」
「遅いよ、ペコ。」
「へへ・・・ これでもすっ飛ばしてやって来たんよ。」
「・・・ うん。」
このシーンは前の「先に行くよ」「スマイルが呼んでんよ」から続いているんですね。
そしてコートを挟んで対峙する二人
「行くぜぃ,相棒」
「おかえり,ヒーロー」
二人はこの時初めて対等に向き合えたのですね。スマイルにとってペコが大事だっただけではなく,ペコにとってもスマイルは大事だったのです。

ちなみに,最終戦については原作が素晴らしいのです。
第5巻53話「復活劇」なのですが,このお話は「ヒーローは必ず現れる!必ず現れる!僕の血は鉄の味がする」というセリフしか存在しない,ほぼ無言の回になっています。
以前小泉がスマイルに対し,右膝靱帯損傷の怪我を負った幼馴染と戦って負けたのがバタフライジョーの引退試合だったという話をしたとき,こんな会話がありました
「わからないな,フォアに深く打ってバックに返せば簡単に沈む相手でしょう」
「君なら打てたかね,旧友の傷に釘を突き立てるような球を,選手生命を奪うような危険なコースに・・・」
これを踏まえて53話を見ると,
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スマイルは打ってるんです!!フォアに深く打ってバックに返す球を!!
これに目を見開く小泉の反応もいいですね,どのような気持ちでこの試合を見ていたのでしょうか・・・。映画もこの原作を上手に表現していました。

最終的に,ペコがスマイルに勝って,スマイルが表彰台で再び笑っておしまいになります。
「ピンポン」は高校生の理想と現実のはざまの漂流を,ヒーロー,憧れ,卓球,才能といった材料を用いて疾走感・退廃感溢れるストーリーの下表現しきった傑作だと思います。
このレビューで皆さんがもう一度ピンポンを見返してくれるのであれば,これ以上の喜びはありません。
評価:★★★★★(5/5)
ピンポン
窪塚洋介
2013-11-26






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