2017年09月29日00:57
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【映画】「12人の優しい日本人」の感想・解説

12人の優しい日本人02


12人の優しい日本人(三谷幸喜脚本,中原俊監督,1991年)
※このブログにはネタバレが含まれておりますので注意して下さい。

【あらすじ】
ある殺人事件の審議のために12人の陪審員が集められた。ここに来た12人は、職業も年齢もバラバラな無作為に選ばれた人々。陪審委員長を努める40歳の体育教師の1号、28歳の会社員の2号、49歳の喫茶店店主の3号、61歳の元信用金庫職員の4号、37歳の庶務係OLの5号、34歳のセールスマンの6号、33歳のタイル職人の7号、29歳の主婦の8号、51歳の歯科医の9号、50歳のクリーニング店おかみの10号、30歳の売れない役者の11号、そして同じく30歳の大手スーパー課長補佐の12号。被告人が若くて美人だったことから審議は概ね無罪で始まり、すぐ終わるかに見えたが、討論好きの2号が無罪の根拠を一人一人に問い詰めたことから、審議は意外な展開へ。有罪派と無罪派と分裂、さらに陪審員達の感情までもが入り乱れ、被告人が有罪の線が強くなっていく。ところがその時、他の者から浮いていた11号が事件の謎解きを推測し始め、それによって事件の新たなる真実が判明する。そして事態はまたまた逆転し、被告人は無罪となるのだった。
MovieWalkerより
【感想・解説】
あの名作「12人の怒れる男」のパロディとして三谷幸喜が脚本を手がけたのが本作品。公開当時は裁判員制度などない中で,日本人がもし陪審員を務めたら…という設定の作品です。12人の怒れる男は有罪から無罪へのどんでん返しが始まりますが,12人の優しい日本人は全員無罪から有罪が巻き返し,無罪へのどんでん返しが起こります。はじめは有罪派が理屈をこね,無罪派は感情論に拘泥しますが,最終的には立場が逆転してしまっていたという皮肉めいた筋書きです。無罪派の感情論については,ずいぶん昔の笑いの感覚が現在と違うことをうざったらしく感じていたのですが,このわざとっぽい感情論もこの終局への伏線となっています。

本作品を簡単にまとめてみますね。

事件の概要:夫に苦労して水商売などで働いていた健気な被告人が,夫が復縁を迫った際に夫を突き飛ばし,夫がトラックに轢かれて死亡したというものであり,殺意と正当防衛が争点となります。証人はトラックの運転手,目撃者のおばちゃんであり,これらと被告人の供述が食い違っています。
トラックの運転手:クラクションを鳴らし,ブレーキをかけたら被害者(夫)を轢いていた
おばちゃん:被害者が周囲に人がいないことを確認して被告人に襲いかかり,被告人は「しんじゃえ」と叫んでこれに抵抗し,被告人の方が優勢だった。通り過ぎようと前をむいたらトラックとすれ違い,クラクションの音がして,続けて急ブレーキの音がしたので振り返ったら被害者が轢かれていた
被告人:当日被害者に居酒屋に呼び出され,すぐ帰ろうと思った。ピザのデリバリーを頼んで居酒屋に行き,被害者と話したが,被害者は酔いながら復縁を迫ってきた。帰ろうとすると被害者が追いかけてきたので逃げたが,途中で追いつかれて被害者にジンジャエールを買ってあげた。被害者と口論になり,一瞬被害者が鬼の形相になってからもみ合いとなり,気づいたら被害者が轢かれていた。このとき,クラクションやトラックには全く気づかなかった。

はじめ,被告人は美人で健気で,こんな人が殺人をするはずないと全員無罪の意見を述べます。これに対し,一人の男性が反旗を翻し,他の陪審員が呼応してゆき,無罪派が優勢となります。

有罪派の主な主張
①クラクションが鳴って,ヘッドライトの光もあったはずなのに被告人がトラックに気がつかないのは不自然である。
②被告人の逃げ道が家に迂回して向かうルートであることが不自然である。
③酔っている被害者に元陸上部の被告人が追いつかれたことが不自然である。
④すぐ帰る予定であったにもかかわらず子供にピザを頼んだことが不自然である。
⑤「殺すぞ」は脅し文句として使うが,「死んじゃえ」は脅し文句として使わないし,実際に暴力も伴っているのであれば意志を伴った言動であった可能性がある。
⑥有罪を逃れるために被告人が嘘をつく可能性はあるが,証人が嘘をつく理由がどこにもない。
⑦以上より,被告人を殺すためにバイパスまで連れてきた計画殺人であった可能性がある。

残っている無罪派は全然目立っていなかったおじさんとおばさん,怒って議論を放棄した童貞の3人だけ。妥協案として傷害致死罪で執行猶予の結論にしようとしますが,おじさんとおばさんが静かに反抗します。これに感銘を受けた別の若い男性が,おじさんとおばさんの味方となり,無罪の主張を深めてゆきます。

無罪派の主な主張
①’運転手が居眠り運転をしており,クラクションを鳴らしていなかった可能性がある。おばちゃんも,クラクションを聞いていたのであれば急ブレーキよりも前にすぐに振り返ったはずであり,思い込みをしている可能性がある。ライトについては,被告人の背後から照らされていたにすぎない。
②’被告人が迂回したのは,被害者に追いかけられている最中に赤信号で最短距離を辿れなかった可能性がある。
③’食べ物が有名な居酒屋であり,被害者は復縁の話をするために酔っていたフリをしていただけである可能性がある。
④’ピザは子供一人で食べきれる大きさではなく,被告人も帰って子供と食べようとしてピザを頼んだこ可能性がある。
⑤’法廷でも聞き間違えの激しかったおばちゃんは,「ジンジャエール」を「死んじゃえ」と聞き間違えた可能性がある。
⑥’トラックの運転手は居眠り運転を咎められることを恐れて嘘をついている可能性がある。おばちゃんは聞き間違えと思い込みをしている可能性がある。おばちゃんの証言のうち,「被害者は誰もいないことを確認して被告人を襲った」という部分も,おばちゃんは二人のことに気がついているのに被害者がおばちゃんを気づかなかったことになるので不自然である。
⑦’以上より,被告人に殺意があったことには合理的疑いが残り,正当防衛であった可能性も排斥できない。被害者は復縁を迫ったものの断られたため,トラックに気づいて自分から飛び込んだ自殺の可能性すら存在する。

いやあ,よくできてますね。特におばちゃんの証言に対する洞察が素晴らしいです。
陪審員11号「思い込みと聞き間違えはおばちゃんの2大要素でしょう!!
はなんかすごい言葉ですね笑

他にも名言がたくさん出てきます。いくつか紹介しますと
陪審員12号:(なんで無罪か聞かれて)「殺意の立証とかなんとか言ってますけどねえ,私はたとえ有罪だったとしても無罪だな。
陪審員8号:(有罪か無罪か迷って)「みゅーざい。
陪審員6号:(劣勢な無罪派の戦略として)「あのね,僕は会社ってやつをよくやってるんでこうゆうのはよーくわかるんですけど,こういうときはだんまり作戦。これに限りますよ」
なるほどその手があったか…。
陪審員12号:(無罪の理由として)「くどいようだがあいつ(被害者)は死んで当然の男なんだ。なーんでわかんねえんだ?」「俺は言っとくけど独り身だ。自慢じゃないがこの歳になるまで一回も浮いた話はない!!」「奴(被害者)は若い女とくっつきやがって。」「あいつは他の女ともくっついてたっていうじゃねえか。よっぽどの二枚目なら俺も納得する。でもな,なんだよありゃ。現場の写真見たけどさ,死んでるの差し引いてもありゃ酷い顔だよ!?」「おりゃ不思議でならねえ,なんであんな顔に女が惚れるのよ!?なんで俺だとダメなんだよ!?裁判中俺はずーっとそのことを考えてたよ。年収だってこっちの方がいいし,背だって俺の方が高い。実家に帰ればね,山だってあるんですよ,今は親父の名義だがね,いずれは俺の物になるんだ,こんど皆で遊びに来てよ!!
ああもう12号大好きです。
陪審員12号:(いきなり有罪だと翻意した際に正当防衛とは思わないんですかと聞かれて)「そんなもんドブに捨てちまえ
このシーンは思わず笑い声が出てしまいました笑。大好きなシーンです。

全体的に12人の怒れる男のパロディが散りばめられていて良いのですが,確かにそれらが日本人的な感じになっているのがいいですね。会議で紛糾する場面も,アメリカでは「怒れる」ところを,日本人は結局いなして和に持ち込んでしまう「優しい」ところがあるのでした。
評価:★★★★☆(4/5)






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